お酒の神様、バッカスが現れて、「一人でキャンプ。焚き火の前で、お前が一番旨いと思う酒は何かな?」と尋ねたら、私は何の酒を選ぶのだろうか。
■アイラ。最強の酒。
薪の組方を変えて炎が違うか試す。
今晩はかなり冷え込む。ふと考えて、さっき使っていた風よけを反射板にしてみる。
なにやら小さな足音がするので、そちらの方を見ると、トンネル。
昼間は気づかなかった小さなトンネルに人影。
こんな時間に子供?いや子供より小さい。何か三角の長い帽子。
「今宵の酒は決まったかな?」バッカスの声。
顔は老人で長くて白い髭。そう白雪姫に出てくる小人。
どうやらバッカスは色々な姿で現れるようだ。
第2回 今宵飲むウイスキーは、『アードベック10年』
前回のラフロイグで感じたアイラモルトの特徴は、焚き火に合うウィスキーの要素を感じたので、今回もアイラにしました。
そしてアイラ島蒸留所のピートレベルを表す指標として使われるフェノール値で、ラフロイグを凌ぐ最強のモルト。アードベック。
1980年代からは度重なる蒸留所閉鎖の危機を乗り越え不死鳥のように復活したアイラモルト。
★上記2枚の写真はHPよりお借りしました。
アードベック10年
タイプ :シングルモルト
では早速頂きます。
色 :淡いゴールド
少し水を足す。
香り :スモーキーであるが、どこか軽やか。チョコのような甘さ。
味わい :口に含む。ピリッとした刺激の後に、味わいの膨らみが押し寄せ、甘さとピート香抜けていく。
余韻 :余韻は長く、まるで葉巻ふかした後のよう。
アイラの海岸を歩いていると、一人荒れた海を眺めている男。大男とも言って良い体躯。私が立ち止まってその背中、この島で生きてきた男の背中を見ていると、その視線に気づいたのか、男は振り返る。潮で焼けた皺だらけの顔。でもその小さな瞳には、この島で生きてきた強さと優しさが満ちている。「どうだい一杯」渡されたスキットルをためらう事なく口にする。「アードベック?」私がつぶやくと、男の瞳は皺の中に消えた。
アードベックを飲みながら、ぼんやり焚き火を眺めているとそんな場面を妄想する。
『どうじゃ、今宵の酒は、最高の一杯の酒だったかな?』
頭を上げると、バッカスは、焚き火台の近くまで寄って来ていた。
手を伸ばせば捕まえられる距離。
『そんなに簡単に見つかるなら、最高の一杯じゃない。」
とつぶやく。
「そう。お前にとっての最高の一杯じゃな。」
えっ。会話が成立するの?と驚いて、バッカスを見ると、もう小人の姿は消えていた。
「私にとっての最高の一杯」
さて寝る事にしますか。