お酒の神様、バッカスが現れて、「一人でキャンプ。焚き火の前で、お前が一番旨いと思う酒は何かな?」と尋ねたら、私は何の酒を選ぶのだろうか。
■アイラなのか、違う土地か。
焚き火の炎は、絶えずその表情を変える。
まるで人の心の揺らめきを写すように。
静かに炎を見つめていると、いつの間にかにウィスキーの事を考えている。
アイラ島には、現在9つの蒸溜所がある。
一番新しいアードナッホー蒸留所は2018年の蒸溜開始なので、製品としては、今現在流通していない。
また、1983年に閉鎖されたポートエレン蒸留所は、閉鎖前に蒸留された原酒が高値で流通している。2020年再稼働の話があったがその後コロナでどうなったか。
アイラで探すとすれば8つの蒸溜所のウィスキー。
今まで飲んだのが、ラフロイグとアードベック。
蒸留所で探すとするとあと6つ。
「今宵の酒は決まったかな?」バッカスの声。
声のする方向に歩いていくと、二股に分かれた1本の木。
二股の木の股の間に一匹のフクロウ。
バッカスは動物の姿でも現れるらしい。
でも顔はリソルの森で見た小人の顔だ。
最初にラフロイグ、次がアードベック。ラガブーリンを飲んで南海岸の蒸溜所を終わらせる。という考えもあったが、あえてアイラ島最古の蒸溜所。インダール湾に臨むボウモアをチョイス。
ボウモアはアイラ最古の蒸溜所というだけでなく、いまだにフロアモルティングを行っている。※床に大麦を広げ、水を加えて発芽させ、製麦する工程。現在、ほとんどの蒸溜所は、製麦会社から購入。
そして、ピートを焚いて乾燥させる伝統的製法を守っている。
ボウモア蒸溜所第一貯蔵庫は、スコッチ最古の貯蔵庫で、なんと海抜0m。
波しぶきがかかり、それがウィスキーの潮の香りをもたらす。
※蒸溜所の写真はサントリーのHPより使用させて頂きました。
ボウモア年12年
タイプ :シングルモルト
製造者 : ビームサントリー
では早速頂きます。
色 :琥珀色
香り :ドライなスモーキーであるが、優しい。
その香りの中に、海、潮の香りが潜んでいる。
味わい :スモーキーさはあるが、甘さ、そしてどこか上品な気品を感じる味わい。。
余韻 :繊細で長い。
殆どが2階建ての白壁の建物。港から教会に向かうゆるやかな坂道の途中に、そのティールームはあった。
本来はティーを頼むべきなのだろうが、その時は、無性にコーヒーが飲みたくて、小さい声でオーダー。
そばかすの若いウエイトレスさんは、「コーヒーですね。」と大きな声。
人口3,400人の島で若者は珍しい。マスターの娘だろうか?
予想より口に合うコーヒーを飲みながら店内を見渡すと、私の他に客は一人。
窓辺の席で一人お茶を飲むの女性。子供の頃のおてんばさとその後の経験で身に着けた気品。
「昔この島に住んでいて、20年ぶりに帰って来たんだって。」
驚いて振り向くと先ほどの女の子が。笑顔で立っている。
よほど私は、興味深そうに見ていたようだ。
いつか君もあのようなエレガンスな婦人になるのだろう。
このままアイラをさまようか、他の土地へ移るか。
スコットランドには蒸留所は100以上ある。そもそもシングルモルト(単一の蒸溜所で作られたモルト原酒のみのウィスキー)なのかブレンデッド(モルト原酒とグレーン原酒をブレンドしたもの)なのかも分からない。
また、製法でなく、国というのも大きな選択肢だ。
「随分悩んでいるようじゃの」
「焚き火の前で。お前が一番旨いと思う酒は何かな?」と尋ねているだけじゃ。
焚き火を前にした、お前にとっての最高の1杯じゃ。
地区、蒸留所を一つ一つ探すのは、一旦止めよう。
海図もコンパスもなく大海原を彷徨ことになりそうだ。
ホッホー。フクロウの鳴き声とも人間の笑い声ともとれる声を発しながら、バッカスが飛び立っていった。
さて寝ますか。
続く