お酒の神様、バッカスが現れて、「一人でキャンプ。焚き火の前で、お前が一番旨いと思う酒は何かな?」と尋ねたら、私は何の酒を選ぶのだろうか。
■本場スコッチか日本人の味覚にあったウィスキーか。
夜が更けてくる。
鳥の鳴き声。木々のざわめき。
薪の弾ける音を聞いているが、耳はどこかでバッカスの声を探している。
もうバッカスは来ないのだろうか。
背後の林の中に気配を感じ歩いていく。
「今宵の酒は決まったかな?」
姿は見えないが、確かにバッカスの声。
ニッカウィスキーの創業者。竹鶴政孝が寿屋(現サントリー)を退社後、自分の理想のウィスキー作りの地として蒸溜所を開いた北海道・余市。
今も当時の石炭による直火蒸溜にこだわっている。
サントリーの創業者の鳥井信治郎とは喧嘩別れのように言われているが、実際は違うようだ。
稀代の名経営者・商売人の信治郎にとって、良いウィスキーとは『売れるウィスキー。日本人の味覚にあったウィスキー。』
対して、スコットランドで技術を学んだ政孝にとっての良いウィスキーとは、あくまでもスコッチだったのだろう。
産地 :日本・余市蒸留所
タイプ :シングルモルト
製造者 :ニッカウィスキー株式会社
では早速頂きます。
香り :トーストが焦げたような麦芽の香り。厚みのある香り。
少しピート香
味わい :重厚。鼻孔に抜けるスモーキーさ。
余韻 :スモーキーが抜けた後の舌に残る甘さ。
二人の男が田舎の大地を歩いている。
一人は初老に差し掛かった中年男性。もう一人は彼の息子ぐらいの年齢だろうか。
議論というより若い男性が、くってかかっているようだ。
理想と現実。伝統と革新。
野焼きの香りが漂ってきて、二人は足を止める。
中年男性が、そばを流れる清流の水をすくい口に入れた。
その旨さに、若者に飲んでみろ。と声をかけたようだ。
渋々すくって飲んだ若者が、驚いた顔を中年男性に向ける。
その後、二人は笑顔で会話を続けながら春の大地を歩いていく。
「どうだったかな?」バッカスの声が響く。
「悪くない。ただ答えを出すには早すぎる。まだ7本目だ。」
急に風が吹いて木々が騒めいた後、静寂が戻った。
バッカスの気配が消えた。
バッカスは私をどこに連れて行こうとしているのだろうか。
続く。