お酒の神様、バッカスが現れて、「一人でキャンプ。焚き火の前で、お前が一番旨いと思う酒は何かな?」と尋ねたら、私は何の酒を選ぶのだろうか。
■今年の1本を決める。
夜が更けていく。
騒がしい程の獣の鳴き声。猿じゃない。もっと獰猛な感じ。猪?
これだけ獣が鳴いているのに、キャンプ場の番犬が反応しない。
おかしいな。と思い見に行く。
クウの姿がない。
少し不安になってテントに戻る。
するとあれ程騒がしかった鳴き声が、ぴたっと止んだ。静寂。
焚き火の炎が燃え上がる。バッカスだ。
随分ものものしい登場だな。
私の言葉に「今年最後の出番だから少し演出じゃ。」バッカスが応える。
「安心しろ。あの犬は、私が帰った後に戻す。」また私の心を読んだ。
「それより、今年の1本は決まったのか?」
そうだよね。今日はその日だ。
今年キャンプで飲んだウィスキーは22本。
◆スコッチ・シングルモルトのアイラが3種
◆ジャパニーズ 7種
山崎・ホワイト・余市・宮城峡・知多・白州・角瓶
◆アメリカン 9種
メーカーズマーク・ジャックダニエル・ジョージデッケル・ワイルドターキー8年
ノブクリーク・ジムビームライ・プラットヴァレー・ウッドフォードリザーブ
バッファロートレース
◆ワールドブレンド 3種
房総・セッション・碧
「どこの国を選ぶのかな?」
「アイラは、こだわりたいのでもう少し探す。ワールドブレンドは、今の段階は選外かな?」
「日本はどうする?」
「現状は選外。どうせなら少し特別なウィスキーを選びたいけど、そうしたら普通に買えないんだから、キャンプ酒じゃないよ。」
「ではアメリカンのどの酒じゃ」
待ってくれ。1本試したい酒がある。
第23回今宵飲むウィスキーは『ジェントルマンジャック』
製造者:ブラウンフォーマン社
色 :オレンジがかった琥珀色
香り :バニラ、キャラメルの香り、柑橘の香りもある。
味わい:スムーズ。上品な甘さ。
余韻 :華やかな香りが高まり、細く長い余韻。
ああ。そういう事だ。間違った。
ジェントルマンジャックは、その名の通りジェントルマンなのだ。
チャコール・メローイングを2回行うという製法は、より磨かれ、スムーズ、いやスマートなジェントルマンに仕立て上げられている。
「決まったかな」
確かめる為にもう1口流し込む。鼻に抜けるセメダインのような癖のある香り。
「ああ今年の1本はノブクリークにするよ。」
「まずは1本じゃな。来年のウィスキーを巡る旅は、もっと厳しくなるぞ。」
不安な言葉だけを残してバッカスは消えた。
クウがワンと吠えた。
続く