お酒の神様、バッカスが現れて、「一人でキャンプ。焚き火の前で、お前が一番旨いと思う酒は何かな?」と尋ねたら、私は何の酒を選ぶのだろうか。
■歴史に翻弄され、復活したアイリッシュ
夕食で汗びっしょりになったので、2回目のシャワーに向います。
管理棟周辺はライトアップされて幻想的。
●急に雲が流れて
テントまでの道。見上げると奇麗な月。
しみじみと月を眺めるのは久しぶりのような気がする。
すると急に遠くの空の雲が、凄い勢いで流れ始めた。
あれほど輝いていた月は覆い隠され、あたりは一気に闇夜。
バッカスだ。
『せっかくのお盆なので、少し派手な登場をしたが、どうかな?』
ギリシャ神話の神にお盆は関係ないだろ。と思ったが黙っている事にした。
『今宵の酒は決まったかな?』
「次の国に行く予定が、1本大事な酒を忘れてたよ。」私は答える。
●第35回今宵飲むウィスキーは『タラモア デュー』
アイリッシュウィスキーの中では、ジェムソンに次いでの2番目に多い販売量を誇るので、この酒を忘れてはいけない。
タラモア・デューは、オファリー州の中心都市タラモアに1829年に生まれました。
タラモア・デューの名づけ親は、4代目オーナーのダニエル・エドモンド・ウイリアムス。DEWは彼の名前の頭文字からとったもの。
アイルランドのみならずイギリス連邦やアメリカでも人気になりますが、20年代のアイルランド独立戦争によるイギリスへの輸出禁止・アメリカの禁酒法。そしてスコッチのブレンデッドウィスキーの台頭により大打撃を受けます。
タラモア・デューもアイリッシュで初めてのブレンデッド化で起死回生を図りますが、衰退を止める事は出来ず。タラモア蒸留所は1954年に閉鎖になります。
その後、タラモア・デューの蒸溜は、ミドルトン蒸留所・新ミドルトン蒸留所、ジョンパワー蒸留所と資本の移転と共に転々とします。
そして2010年ウィリアム・グラント&サンズ社に買収され、2014年新タラモア蒸留所がオープン。タラモアの街に60年の時を経て、タラモア・デューが復活するのです。
まさに歴史に翻弄され生き抜いたアイリッシュウィスキー。
では頂きます。
生産地:アイルランド共和国 オファーリー州
蒸留所:新タラモア蒸留所
製造者:ウィリアム・グラント&サンズ社
色 :やや薄めの黄金色。
香り :ノンピート麦芽プラムでパインやレモンのような果実の香り。
そしてバニラ香。。
味わい:アイリッシュの3回蒸溜によるスムーズな味わい。オイリーな滑らかさ。
余韻 :余韻は薄く、フィニッシュは白い花のような香り。
蒸留所を一人の老人が懐かしそうに見つめている。
そばに立つとしゃがれた声で老人は話始める。「少年の頃、馬小屋で寝泊まりして、蒸留所で下働きをしておった。」さわやかな一陣の風が、芝の香りとどこかに咲く花の香りを運んでくれた。「一杯いかがかな」老人がスキットルを差し出す。
「儂の名前のウィスキーなんじゃ。」
『アイリッシュはどうだった』
「どんな事をしても生き残る。酒も国も人も同じだ。」
フオッ、フオッ、フォ。笑い声を残してバッカスは消えた。
続く。