お酒の神様、バッカスが現れて、「一人でキャンプ。焚き火の前で、お前が一番旨いと思う酒は何かな?」と尋ねたら、私は何の酒を選ぶのだろうか。
■原体験的アプローチはどうなのか?
夕食時を過ぎ、周りの話声は低くなり、薪のはじける音と波の音が大きくなった。
そんな時に鳥の声。
日の暮れる前「トンビの群れが飛んでいます。ご注意下さい」
とアナウンスがあった。
その群れから離れ、空高く飛ぶ一匹の孤高のトンビ。
「今日のバッカスはトンビ?」と予想していた。
キャンプ場内の小さな丘に登り、見渡してみる。
夜空に鳥の姿を見つける事は出来ない。
「バッカス。どこにいる」
鐘の音?カーン・カーンと小さな鐘の音が続く。
急いで海側に走っていくと、鐘を吊るす柱の上に一匹のトンビ。
くちばしで鐘を突いている。
やっぱりトンビか。
「今宵の酒は決まったかな?」バッカスの声。
ホワイトは元の名は白札。1929年発売の国産ウィスキーの第一号。
ただ選んだのは、歴史とか製法とかではなく、私のウィスキーの原体験。
子供頃見たCMで、黒人が楽しそうにウィスキーを飲むCMがあった。
※アメリカのエンターテイナー。サミーディビスJr。
黒人にホワイトの宣伝をさせたのだから、今なら大炎上。
その後、学生時代、友人と行くパブでよく飲んだのもホワイト。
当時、ウイスキーは等級制で、特級・1級・2級。
特級の代表はサントリーのオールドかニッカのG&G。
特級は学生には高級品。
飲むのは客引きからボトル券を貰った時。
だけど詰め替え品・偽物。
ホワイトは1級。
仲間が失恋するとウィスキーを1本差し入れするのが習わしみたいな時期があった。
1本をアパートに持っていくだけ。一緒に飲むわけでもない。
今夜一人でこの酒を飲んで、失恋の痛みを癒せ。
そのメッセージ。
当時、キリンのNEWSとかもあったが、私が差し入れられたのはホワイト。
サントリーホワイト
産地 :日本
タイプ :ブレンデット
製造者 :サントリー・スピリッツ株式会社
では早速頂きます。
色 :淡琥珀色
少し水を足す。
香り :香りの総量は少なく、ドライ。
味わい :シャープで軽い。アルコール感を感じる味わい。
余韻 :余韻は短く、切れのある味わい。
カウンタ―。一人飲む男。いい事もあった。運の悪い事もあった。
プラス・マイナス。マイナスの方が多かったような気がする。
ロックで飲むこのウィスキーが、俺の背中を押してくれる。
まだ大丈夫だと。
「お勘定。」家に帰ろう。
『どうじゃ、今宵の酒は、最高の一杯の酒だったかな?』
このウィスキーじゃない。この味は違う。
「お前が」という部分を間違えたよ。
センチメンタルな思い出だけでダメだ。
当たり前だがウィスキー自体の味わいが重要なのだ。
どうやらバッカスの罠にはまった。
くッ・くッ。
バッカスは笑い声とも、トンビの鳴き声とも分からない声を発して飛び立った。
さて寝る事にしますか。