お酒の神様、バッカスが現れて、「一人でキャンプ。焚き火の前で、お前が一番旨いと思う酒は何かな?」と尋ねたら、私は何の酒を選ぶのだろうか。
■こだわりのモテ男の酒。
夕食が終わって、子供の寝る時間が近づくと、あちらこちらで、花火が始まる。
火薬の独特の匂いが、風に乗って私のテントにも届いてくる。
大人の焚き火は、子供の花火か。遠い日の花火を思い出す。
「そんな、センチメンタルな、いい思い出のない青春時代だったはずだが。」
バッカス。
「人の記憶に入る力があるのかよ。」私は尋ねる。
「ワシは神じゃ。」
「中学1年の祭の夜。夜店の道で、前から来る浴衣の彼女に驚いて、思わず隠れたじゃろ。初恋の彼女。この間、孫が生まれたぞ。」
「やめろ」
「ウィスキーの話だろ。俺の思い出の話じゃない。」
くっくっ。バッカスの鳥のような笑い声。
「思い出もウィスキーの良いつまみじゃ」
アメリカンウィスキーと言えば、バーボンが代表だが、世界で1番売れているウィスキーは、テネシーウィスキーのジャックダニエル。
バーボンの蒸溜所は、ほとんどがケンタッキー州にあるが、ジャックダニエルは、お隣のテネシー州にある。
ちなみにテネシー州は禁酒法のある州で、ジャックダニエルの蒸溜場は、工場見学で試飲が出来ません。
創業者のジャックダニエルは、13歳で蒸留所のオーナーになりました。
身長は160㎝程度でアメリカ人としては小柄ですが、非常に女性にもてた。との話が残っています。
テネシーウィスキーの特徴は、チャコールメローイング製法。
蒸留直後の原酒をサトウカエデの炭の層に注いで、ゆっくりとろ過。
それにより、荒々しさがとれ、優しい口当たりになります。
では、頂きましょう。
タイプ :テネシーウィスキー
製造者 :ブラウンフォーマン社
色 :アメリカンウィスキー特有のオレンジがかった黄金色
香り :完熟したフルーツやメープルシロップを思わせる甘い香り。
またウッディな香りも感じる。
味わい :スムーズでまろやか。そして芳醇。最後にわずかに苦味。
余韻 :一気にひろがる華やかさ。余韻が厚く長い。
次は少し水を足します。この為に汲んできた熊野の清水。
青年、いやまだ少年の面影を残す若者が洞窟の湧き水の前に立っている。
泉の水をすくって飲むと、青年の顔に驚きの表情が浮かぶ。
その水の美味しさは、歩き疲れた身体を癒してくれる。
そして青年の瞳には、未来への大きな野心の炎が映っていた。
「どうだったかな?」バッカスの声が響く。
「アメリカンウィスキーと焚き火の相性はいい。多分、ホワイトオークの新樽の木香が影響していると思う。」
花火の弾ける音がした。
バッカスの気配は無い。
続く。