お酒の神様、バッカスが現れて、「一人でキャンプ。焚き火の前で、お前が一番旨いと思う酒は何かな?」と尋ねたら、私は何の酒を選ぶのだろうか。
■アイルランド。世界最古の蒸溜所。
夜が更けて、子供達の声も小さくなってきたのは、遊び疲れたせいだろうか。
ウィスキーが樽熟成するようになったのは、1644年にウィスキーに課税が始まり、その後スコットランドのイングランド併合。
さらに課税が、厳しくなる中、イングランドに高い酒税を払う事を嫌ったスコットランド人は、山奥で密造を行わうようになる。
モルト原酒を隠すのに。樽に入れるようになり、今のいウィスキーの原形が生まれた。
酒を飲みながら、焚き火を見ていると、そんなスマグラー(密輸人)の気持ちになる。
ランタンの灯りが急に明るくなる。バッカスだ。
『熊の彫り物に宿ったが、体が動かない。しっかり止めてある。いい仕事じゃ。』
バッカスの声が木々の中に響いてくる。
やっぱりあそこを狙ったか。(笑)
「ところで、今宵の酒は決まったかな?」
●第30回今宵飲むウィスキーは『ブッシュミルズ ブラック・ブッシュ』
ブッシュミルズ蒸溜所は、1608年創業※で世界最古の蒸溜所といわれています。
※1608年、当時のイングランド国王ジェームズ1世が、現在ブッシュミルズ蒸溜所のあるアントリム州の領主サー・トーマス・フィリップスに蒸溜免許を与えた記録が残されています。
公式には“The Old Bushmills Distillery”が1784年に登録されています。
ケルトの巨人の伝説が息づく地で生まれたウィスキー。
では、頂きます。
アイルランド産のノンピート麦芽と、アイリッシュウィスキーの特徴である、3回の蒸溜。
生産地:北アイルランド アントリウム州
製造者:ディアジオ社
色 :黄金がかった琥珀色
香り :ノンピート。シェリー樽由来のフルーティな香り。
少し胡椒のようなスパイシーな香りもある。
味わい:シルキーでなめらか。フルーティな甘さが追いかけてくる。
余韻 :モルト原酒80%による長く力強い余韻。
甘い香りが呼吸の旅に、いつまでも鼻を抜けていく。
島の北端で、一人私は冷たい海を眺めている。
夕日に反射し、波が金色に輝いている。
スキットルからアイリッシュを口に含む。潮風とウィスキーの香りが絶妙だ。
背後に急に人の気配がする。大きい。巨人だ。
『旅人よ。うまそうな酒を飲んでいるな、私にも一口くれないか。』
ああ、一緒に飲もう。
『伝統はお前に何かを教えてくれたか?』
バッカスの気配が消えた。
続く。