お酒の神様、バッカスが現れて、「一人でキャンプ。焚き火の前で、お前が一番旨いと思う酒は何かな?」と尋ねたら、私は何の酒を選ぶのだろうか。
■懐古なのか革新なのか
『ブルーベリー畑のおやじじゃ、サリンジャーも小説には出来んな。』
嫌味だか適切な表現だ。
今夜は前振りも無くバッカスは現れた。
『蚊が多いな。竹藪でずいぶん食われた。痒い。』
神様が蚊に食われるとは初耳。
『酒を飲むと蚊に食われるというから、酒飲みのバッカスは仕方がないだろ。』
ふと神様の血を吸った蚊の事が気になる。
「ところで、今宵の酒は決まったかな?」
●第32回今宵飲むウィスキーは『カネマラ』
カネマラを製造するクーリー蒸留所は、1989年からウィスキーを蒸溜している比較的新しい(それでも30年以上)蒸留所。
アイリッシュウィスキーは通常、ピートを使わず、未発芽の大麦と麦芽を原料として3回蒸留が一般的だが、このカネマラは、ピーテッドモルトで2回蒸溜のシングルモルト。まるでスコッチのモルトの製法。
ただ昔のアイリッシュウィスキーは、ピーテッド麦芽を使用していたそうで、その意味では、懐古であり、新しいアイリッシュを目指す、革新なのだろう。
では、頂きます。
生産地:アイルランド共和国 ラウス県クーリー半島
製造者:ビーム・サントリー
色 :輝く黄金色。
香り :スモーキーではあるが、ヘビーピートではない。
ガツンというより心地よいスモーキーさ。
フルーティさも感じられる。
味わい:少しビターチョコを食べたあとのような味わい。スムーズ。
余韻 :鼻を抜ける香りが爽やかで、スパイシーな余韻が続いていく。
カウンタ―で男が二人ウィスキーを飲んでいる。
一人の男がグラスの底を見つめながらつぶやく。
『スモーキー。私の好きな言葉です。』
もう一人の男が、驚いたように顔を上げ、話しかけます。
『そんなにピーテッド麦芽が好きになったのか。カネマラ。』
『そんなくだらないおやじギャグを言うから家族に相手にされないで、ソロキャンプしているんだ。』
バッカスの言葉に我に帰る。
くだらないギャグが家族に受けないのは事実だが、それとソロキャンプは違う。
『次はどこに行くんだ』
カネマラを飲んでアイラが恋しくなったが、もう少しアイリッシュを探ってみよう。
『この蚊取り線香貰っていくぞ。』
続く。