お酒の神様、バッカスが現れて、「一人でキャンプ。焚き火の前で、お前が一番旨いと思う酒は何かな?」と尋ねたら、私は何の酒を選ぶのだろうか。
■世界で最も飲まれているスコッチウィスキー
蝉の声。懸命に鳴いているが、まだメスに出会ないのか。
もう夏も終りだ。時間が限られている。
蝉の声が止んだ。鳥たちが飛び立ち、木々が揺れる。
バッカスだ。
『かなりの山奥に入ったな。さっき電話したが、繋がらなかったぞ。』
おいおい、携帯持ってないだろう。
『アイルランドは、離れたのだろう?今宵の酒は決まったかな?』
私は答える。「ああ、スコッチ。ブレンデッドにしたよ。」
●第35回今宵飲むウィスキーは『ジョニーウォーカー 黒ラベル12年』
世界で最も飲まれているスコッチウィスキー。
ジョニー・ウォーカーは、約200年前に食料品店を営むジョン・ウォーカーによって誕生した。
ブレンデッドウィスキーの創成期に生まれたウィスキー。
山高帽に赤いジャケット、手にはステッキ。白いパンツに黒いブーツを履いた「ストライディングマン」は今も世界中を歩いている。
さて頂きますか。
生産地:イングランド
製造者:ディアジオ社
色 :熟成感のある琥珀色。
香り :スモーキーな原酒。シェリー樽由来の甘い華やかな香り。
フルーティな香りも感じる。
味わい:程よい熟成感とバランスの良さ。ミディアムボディの飲みやすさ。
余韻 :軽やかで甘い余韻が長く続き、徐々に消えてゆく。
もう29年前の事、親父の葬式の後、後日、家の中を整理しているとサイドボードから何本ものジョニ黒が出てきた。
今から40年ぐらい前のジョニ黒は、国内では1本1万円で高級品。
海外旅行のお土産の定番。
貰って、大事にとっておいたままで、病気で飲めなくなったのだろう。
封を開けます。位牌の前で献杯。一緒に飲みたかったな。
『どうした?』バッカスの声が珍しく優しい。
「酒の味は、それにまつわる思い出も含めてのものだから、私が選ぶ1本は、他の人の1本にはならない。」
少しの沈黙の後、バッカスがつぶやいた。
『それも含めてお前の1本を探す旅だよ。』
何となく、バッカスの声が親父の声に似ているような気がした。
顔を上げた時には、もう気配はなかった。
続く。